Saltの思うこと

思ったことを書いていけたらいいなあ

伝統ある古典部との邂逅

"それ"との出会いはよく覚えている。

 

ついこの間、米澤穂信氏著の『いまさら翼といわれても』を買って、読んだ。3年前に単行本で発売されていたが、それまでのシリーズ作を全て文庫で買っていたので、文庫化されるまで待っていた。決して、単行本で小説を読むのが苦手というわけではない。決して。

前作にあたる『二人の距離の概算』が文庫で出たのは2012年らしい。ただ、自分が小説を買い始めたのはアニメが終わってしばらく経ってからだった気がする。だから、7年前ではなく6年前になるはずだ。まとめて買うほどの金も持っていなかったはずだから、もしかしたら5年前かもしれない。

この<古典部>シリーズは、それまで漫画ばかりを好んで読んでいた自分に、小説というものを教えるいいきっかけになった。それまで小説と言うと、夏休みの読書感想文を提出するために、あるいは朝の読書の時間をそれなりに実りあるものとして過ごすために仕方なく読む、良い意味で苦痛にまみれたものだった。

本当なら、自分が読みたいと思ったものだけを読めばいいのだ。仕方なく読まれるというのは、読者にとっても本にとっても不幸である。ただ、あいにく、当時の自分は小説の面白さというものを理解していなかった。

 

この<古典部>シリーズは、『氷菓』というタイトルで2012年に2クールでアニメ化されている。京都アニメーションによる美麗な作画が話題になったが、放送が始まった当時の自分はさほど気にかけてもいなかった。余談だが、当時気に入っていた作品は『ニャル子さん』とか『さんかれあ』とかだった気がする。

ある時、番組表でその日のアニメをチェックしていて、『氷菓』がふと目に入った。なんとなくリモコンの「番組情報」ボタンを押して現れた解説文には、「米澤穂信の代表作がアニメ化」とか、そんな感じの文言が書かれていたと思う。

米澤穂信。その名前には見覚えがあった。当時にして中学生の自分が、小説に興味を持ち合わせていなかった自分が、なぜこの小説家を知っていたのか。しばらく考えた末、ハッとして本棚のある一冊を手に取った。

インシテミル』。たしか、中学の朝読書の時間に読む本で悩んでいた自分に、親が『ブレイブ・ストーリー』と共に買い与えたものだ。いや、『リアル鬼ごっこ』だったかもしれない。そんなことはどうでもいい。とにかく、その『インシテミル』の作者もまた、米澤穂信氏だった。

今にして思うとなぜ中学生にこんな難解な小説を渡したのか謎だが、しかし自分もこのタイトルは知っていた。藤原竜也主演で実写映画化され、話題になったからだ。親も文芸にはあまり明るくないので、きっとその感覚で手に取ったのだろう。

インシテミル』の感想はともかくとして、この小説の著者とアニメ『氷菓』の原作者は同じだった。『インシテミル』の折り返しに書かれた作者プロフィールの欄には、『氷菓』の名が確かにあったのだ。

"繋がった"感じがした。疑問が晴れて清々しい気持ちになるのはミステリの醍醐味の一つだが、自分はまだ内容をほとんど知らないうちに「原作者」というパーツひとつで、それを味わった。そこから虜になるまでにはもう少し時間がかかったが。

 

そんなわけで、<古典部>はお気に入りのシリーズだ。今でも読書家を名乗れるほど本は読まないし、相変わらずアニメと漫画、そしてゲームに傾倒した人生を送っているが、この小説だけは、自分の中でなにか特別なものとなっている。

一番好きなのは、「心あたりのある者は」。

(感想の記事は、またいずれ)