少し遅れましたが、『いまさら翼といわれても」の感想を。
今回は短篇集で、一部は普段と異なる視点から描かれています。それ以外にも、作中でクローズアップされる人物が絞られてきています。こうするとよりキャラクター小説らしさが増して、読みやすいですね。
- 箱の中の欠落
ここでは奉太郎と里志がメイン。街中を巡りつつの会話で、ほぼ状況証拠のみで解決へ導く様は「心あたりのある者は」に通ずるものが。あと、奉太郎と里志の悪友感はいいですね。本作でこのエピソードのみ、女っ気が無いです。
- 鏡には映らない
摩耶花視点その1。中学時代の奉太郎の行動を後から追いかける、回想録に近いかも。やはりというか、彼はナイスガイなところはあると思います。それにしても本作は奉太郎がやけにおどけている気がします。前からか?
- 連峰は晴れているか
唯一アニメ化されているエピソードなのですが、どうにも記憶から引っ張り出せません。これと「長い休日」の奉太郎は、本人も自覚しているぐらいヘンなんですが、変わってきてるんですかね。
- わたしたちの伝説の一冊
摩耶花視点その2。漫研絡みのエピソードは嫌にリアルというか、鬱屈としてますね。自分も高校は漫研だったけど、そういうのはあんまり無かったかなぁ。まあそれは別の話。
摩耶花視点の2作はどちらも、我々はそれを後から知ることしかできない、苦々しい話になってます。アニメのキャッチコピーが「青春は、やさしいだけじゃない。痛い、だけでもない。」なんですが、それを体現してるというか。
- 長い休日
アクティブな奉太郎。そして彼のモットーがいかにして生まれたのかを振り返り。要するに「いいように使われるのが嫌だった」って感じですね。でも今の奉太郎は……? という話です。ある意味、<古典部>シリーズの根幹に関わるエピソードかも。結構好きです。
- いまさら翼といわれても
表題作。古典部4人それぞれに満遍なく出番のある、この短篇集の締めには相応しいだろうつくり。一貫して「人の死なないミステリ」でありながら、今回は「失踪した千反田の居場所を突き止める」という、場合によっては生死が分かれてもおかしくないようなシチュエーションだったり。
奉太郎もそうだけど、千反田もこの先どこへどう向かっていくんでしょうね。ちゃんと見届けてあげたいところです。
余談ですが、本作は妙に料理しています。今まで家庭描写がそう少なかったわけでもないですが、なんか意味はあるんですかね。