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上田麗奈『Empathy』を聴いた感想を書いて「共感」してもらえたら嬉しいという記事

3月18日、上田麗奈さんの1stフルアルバム『Empathy』が発売されました。

店頭日から発売日にかけてはどこも売切続出で、予約しておいてよかった……と思うばかり。

さて、このアルバムですが本当にすごい! 「ミュージシャン」と「アーティスト」の違いとはこういうことだ、と言わんばかりの内容になっています。

そんなわけで、アルバムを聴いて受けた感想を書いていこうかなと思います。せっかくなので、この記事を読む前に皆さんも一度聴いてほしいです。

その前に

いちおう予防線というか、前提として書いておきたいのですが、自分は普段あまり音楽を聴いて生きていません。せいぜいアニメのOPEDやアイマス音ゲーぐらい。あとは垂れ流しているテレビから今話題の曲が聴こえて、なんとなく覚えているといった具合です。仕事をしていてイヤホンを付けたまま店内を回る人も多く見ていますが、何を聴いているんでしょう?

それはともかく、コード進行とか俺の知らねえ言葉を使うなと言いたいし、一曲を通しての構成の妙とか、どこの楽器が良いとかもさほど気にしたことはありません。間奏でようやく意識して聴けるレベル。

なので、音楽方面への造詣はまるで無いです。それでも、インタビューや今まで見てきた出演作を下地にこのアルバムを語りたい。その熱意だけでも理解していただけると幸いです。

それでは行きましょう。

アイオライト

本アルバムの、いわばオープニング曲。『あまい夢』と同じく明るいメロディ・暗い歌詞といった構成ですが、こっちはやや暗めの要素が多めかも。本人作詞なのもあるかもしれませんが。

歌詞は本当にそのまま自身の声優人生を顧みて書かれたものだと思います。コンセプトとしては「『RefRain』から変わったところ」なので前向きに。こういう「前向きなネガティブ」が目立つ曲が多いんですよね。それしか無いかもしれない。

あまい夢

一番最初に公開された曲(正確には、ティザーPVで『Another』が使われていますが)。それもあって、特に印象深いですね。

事実上の前作『RefRain』の空気感からは打って変わってポップミュージックに仕上がっており、初公開当時に「方針転換したのかな?」と思った人も多いのでは。逆に考えてみれば、この曲と『アイオライト』の曲調が明るいからこそ、『Falling』『ティーカップ』……と続く楽曲たちがより引き立つのだと思います。

内容はと言うと、「好きな人たちを遠巻きに見ているだけで幸せ」という、ある意味オタク達が最も共感できそうなテーマの下、書かれています。実際にはもう少し歌詞の距離感は近くて、「一緒にいられるだけで幸せ」といった具合。でもこの想いを伝えるにはあまりに度胸が足りない……という感じ。物理的な距離と、精神的な距離の違いですかね。そんな内に秘めた想いを抱えた、悲恋の歌と呼べるかもしれません。

そんなわけで、メロディから感じ取れる「明るい」面と、歌詞から読み取れる「暗い」面の二つを併せ持った、一粒で二度美味しい不思議な楽曲。「『Empathy』にはこんな曲ありますよ!」と周囲に広めるには最適な感じ。だからこそ、真っ先に公開されたのかなぁと思ってます。皆さんも人に勧める際に不安になったら、この曲を聴かせておけば間違いないと思います。

Falling

2つあるインスト曲のうちの前半。ポップで明るめの印象だった前2曲から打って変わり、ライナーノーツ通りどんどん落ちていくような……そんなイメージ。

『あまい夢』のフレーズが切り取られ散りばめられているのが、なんだか無性に怖かったです。この後に続くのが内に籠もっている現実と向き合うような曲なので、今まで心地良い夢を見ていた空間が「あれ? あれ?」と、どんどん濁って遠ざかっていく。そういった役割というか、演出なのかな? と思いました。

ティーカップ

リズムを刻むハミングが『Falling』から繋がってるんですよね。

全体的なメロディとしてはポップな前2曲に近づけつつも、後半からどんどん歯車が狂い始めるというか、それまで確固されていた何かがどんどんブレていく。どちらかと言うと、歌よりもメロディに注目した方が面白さが伝わってくると思います。「とってもきもちわるい曲」とは本人の弁。

崩された足場の不安定さがより増幅された結果『いつか、また。』に手渡されるんですかね。

いつか、また。

すごく悲痛な曲。あくまでも"役者"であることを実感できる、特徴的な歌い方です。歌にこれほどの感情を込めて歌える人は本当に珍しい……初めて見たかもしれない。そんな印象。本人は「歌ではない歌を作る」という目標があったようですが、本当にその通りだと思います。

そして、モチーフとなったであろうキャラが歌詞に如実に現れています。怒ったり、泣くようだったり、そんな喜怒哀楽が酷くハッキリしている様が、モチーフとなったキャラクターに通ずるところがあるのではないかと。

「戻れなくてもいいじゃん」と、自身の誘うような言葉、行為が悪であることを自覚して、それでもなお自分の世界を守るためとわがままになる。それではいけないと心の内では理解しつつ、差し伸べられた光の手すらも叶うならば跳ね除けたい。でもここから変わるにはその手を取らなくては……というジレンマ。モチーフであろう作品にあったシチュエーションがほとんどそのまま書かれていますね。あちらは感情世界の比喩的表現でしたが、それを敢えてそのまま詞に描くというのは面白いです。

余談ですが、発売にあたって様々なラジオへ出演している上田さんが最もラジオ内で"聴かせている"曲でもあります。それほど自信のある曲なんだろうし、自分としてもこの曲を置いて『Empathy』は語れないとさえ思います。勧める際に相手が「上田麗奈」という個人を認知しているのであれば、こちらを先に聴かせてもいいかもしれません。

きみどり

「いつか、また。」から流れで聴くと、あまりに優しく包み込むような暖かい音で、なんだか涙が溢れそうになります。光を受け入れて、踏み出した後でしょうか。

前2曲と同じように閉じ込もっていた自分が、ふと見上げてみれば太陽のような人たちに支えられており、やがて自分も同じように前を向けることに気付く……という歌ですから、そう考えていくと、モチーフは何人かに絞れると思います。

インタビューによると、初めはタイトルが違ったそうです。もう少し人に寄り添ってもらうような歌詞へ修正をした結果、このタイトルになったと。修正前はもっと軽やかで、飛んでいけそうな詞だったとか……。

そしてライナーノーツでは「一歩を踏み込む勇気」というフレーズが書かれています。このフレーズに関して自分はどうしても譲れないところがあるというか、あの作品の根底にあるものがそれなので、モチーフはあの子なのかな……と想いを馳せたり。

 

またしても余談ですが、タイトルを見た時に『ワタシ*ドリ』と絶対関係ある! という確信がありました。実際には少し違いましたが(そもそも初めはタイトルが違った)、「色とりどりの私」と「君がくれた彩り」なのでまぁ大体同じでしょう(断固)。

Another

ティザーPVで使われた曲になります。インスト曲の2つに、自分は良くも悪くも「Now loading...」の印象を受けました。

ティーカップ』『いつか、また。』でズタズタにされたような自分の気持ちが、『きみどり』によって少し立ち直り、『aquarium』『旋律の糸』を経て再び自己を取り戻す……という全体の流れがあると思うのですが、その繋ぎにある曲として、どこか前作『RefRain』にも似た雰囲気があるというのは何だか意味深に感じます。

aquarium

メロディや歌い方はとても重苦しいのですが、意図としては前向きなものらしいです。水面に上がるという明確な目標があって、そこへ向かってひたすらにもがき続けるという。でもそこへ辿り着くにはあと少し、何かが足りない……といった感じか。

先程まで周囲の目を気にしていたのが、ここでは自己を顧みるような歌詞ですね。インタビューでは、「劣等感が元になっている」とのこと。『きみどり』等で他者を尊重することを知り、次の段階として他者と比較しての自分らしさを探しているんだと思います。それが分かった時が、「次の私」なのかな。

最後、波のように余韻の音が畳みかけてくるのも特徴的。

旋律の糸

この曲について、作詞のRIRIKOさんが「ここで言う"旋律"とは個性のこと」と自身のブログで書かれていました。解説を噛み砕いていくと、つまるところ初めはバラバラ=豊かだった個性(糸)が、成長するにつれ一体となっていきやがて美しい旋律を作り出す……調和を生み出すことになります。

それに対して、異を唱えるというか。そんな意図(ダジャレではなく)が込められていると思います。他人と同じ糸を少しずつ切り離していって、最後に残ったものこそが"自分自身"なのか? 『aquarium』で探し求めていたものはそれなのか?

もろに『Another』のハミングが使われているのも意味深です。何度か出てきますが、最後には1人の声のみが聴こえる。世界からどんどん離れていって、辿り着いた場所なのか。

Campanula

雑誌インタビューで言及され、モチーフがほぼ確定している曲です。先に個人的な感想を言わせてもらうと、過去に出演された複数のラジオに渡って、この曲のキーとなるフレーズが生まれた回のことを話していたので、それほどまでに印象に残っているのか、と思いました。

それで詞なのですが、初見で受けた印象は「視点が移り変わっている?」というものでした。モチーフであろう作品のシチュエーションを借りると、一番は感謝をされる側、二番は感謝をする側、最後はお互いが離れた後、小さな花畑で空を見上げながら余韻に浸るような。

あのシナリオは喧嘩別れというか、すれ違いから生まれたものですから、それを念頭に置いた上で曲のテーマである「ごめんねではなくありがとう」を読み進めていくと、また変わってくるのかな。

Walk on your side

ライナーノーツで上田さんはこの曲を「共感よりは理想が込められている」と語っています。ここまでの10曲(8曲)を乗り越え、そうしてたどり着いた結論。それがこの歌ではないかと。なのでモチーフとなった作品・キャラクターは存在しないというか、敢えて言うなら自分自身なのかなぁ。

ただ、この結論って見るに『RefRain』で描かれたものとほとんど変わらないとは思うんですよね。「ダメな、臆病な自分を受け入れて、それでも前を向いて今日を生きよう」といったニュアンスだったと思いますが、この曲ではさらに「周りにはみんな(あなた)がいるから」という理由も追加されています。「共感」ですからね。それに、方々で「みんなで作ったアルバム」と話しています。作詞作曲を始め、本人以外の多数の方の協力があってようやく世に放たれたこのアルバム。締めを括るにふさわしいのではないでしょうか。

これらの想いを受け止めた上で、「その先」へ向かう上田麗奈さんがどう進んでいくのかと訊かれたら、それはこの歌の歌詞ラスト5行に詰まっていると思います。

 

アップテンポな曲ということは、このままループして『アイオライト』にまた戻ることもできます。何度も何度も同じことを繰り返して、そのたびに少しずつ成長していく。そしてそのループが終わった時に何が待っているのか? 自分たちにも計り知れませんが……それは次のリリースかもしれませんね。

まとめ

長々と感想を書き連ねてきましたが、しかしこれらが正しいものかと問われると甚だ疑問ではあります。ただ、100%間違っているわけでもないと思うんです。

アルバムのテーマが「共感」である以上、この記事は、自分が曲を聴いて「こういうことなのかな」と思ったのを述べたに過ぎないし、それに賛同=共感してくれる人がいるのであれば、きっとそれで良いんだと思います。

同じ曲を聴いた人たちの人それぞれ、色とりどりの感想が散りばめられている中から、共感できるものを拾い上げて、「この色、いいな」と、そうした輪が広がっていけばいいのかなぁ、なんて。言いたかっただけですごめんなさい。

 

制作にあたっては「今まで演じてきたキャラクターをモチーフにしている」と仰っていました。ライナーノーツや歌詞の解釈、また本人やキャラが幾度となく口にしているようなフレーズを知っていれば、自ずとモチーフも浮かび上がってくる。ゆえに姿形がほとんど見えているものもあるし、実態を捉えるにはまだ少し深い位置にあるものもある。

しかしながら、本人の発言では「モチーフはこの作品のこの子です、と公言するつもりはない。色んな風に考察してほしい」とのこと。

つまるところ、見る人それぞれによって見え方が異なる――それこそアイオライトのような――少しふわっとした存在がちょうどいいんじゃないかと。如何様にも解釈できることが、正しい「アート」の在り方なのではないかな、と思います。

だから、人の受け売りではない、自分だけが持てる、放てる言葉でこのアルバムを語り継いでいくべきなのではないかと、そう思ってこの記事を書いた次第です。

感想を読んで「そんな見方があったか」と感嘆するも良し、「私もそう思った」と賛同するも良し。自由で、素敵な世界が広がっている、そんなアルバムです。みなさんも是非。