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創造される色たち【上田麗奈1stLIVE感想記事】

上田麗奈1stLIVE Imagination Colors』に参加してきました。昨年開催予定だったライブの振替公演となり、自分は配信で参加予定……だったのですが、奇跡的にというか、巡り合わせというか、とにかく人脈に恵まれ、現地参加が叶いました。お声がけ下さった方には改めてこの場でも感謝を述べさせて頂きます。

 

以下、ポエム。

開催日の3月14日は、前日まで春の嵐とも言うべき悪天候に見舞われていたが、当日は風が強いものの快晴でまさにライブ日和といった具合。今回お世話になる人たち&前々からお世話になっていた人に挨拶を済ませ、開演――。

 

始まりは波音。それもかなり激しいもの。

彼女の出身地である富山……日本海側は波が激しいと聞く。そういうイメージなんだろうか。「くちなし」にあった、岩場の写真を思い出す。

そして流れ出す『海の駅』。5年前、アーティストデビューの発表があったその時に使われた、紛れもない始まりの曲である。透き通るような歌声は、5年前の「RefRain」の頃から変わった印象すら受けない。喉からCD音源とはよく言うものの、この場においては明らかに音源を越していた……と言うべきか、会場と一体になった独特の空気感が、既に形成されていた。

開演の挨拶を済ませると、マイクを移動し椅子に座る。置かれていた本を読み聞かせるように始まるのは『sleepland』。以前開催された「ランティス祭」において、"アーティスト上田麗奈"として初めてステージに立ち、歌ったのがこの曲。つまるところ、今日このステージがあるのは『sleepland』のおかげといっても過言では無い。

そこからはノンストップ。心休める暇もなく『fairy taleの明けに』『誰もわたしを知らない世界へ』と、『sleepland』に関連する曲が次々と歌い上げられる。まさに夢の世界、幻想への招待状といった具合だ。

ステージセットにも変化が加わり、続いたのは『花の雨』と『たより』。『リテラチュア』のカップリングとなる2曲だが、この2曲は共通したテーマのもと作られている。大切な人との別れ、手向けの曲なのだ。人と人の温かい繋がりを感じさせるそんな2曲に続くのはやはり『きみどり』。会場は柔らかな空気に包まれていた。

それを切り裂いていくのがインスト曲の『Falling』、そして『ティーカップ』。今でこそラジオのED曲という印象が強いが、「Empathy」においては暗い曲調ゾーンの始まりにある。このライブにおいても、その例からは漏れなかった。

そしてもがき苦しむ『aquarium』『旋律の糸』と続く。この2曲は他人と比較した際の自己嫌悪あるいは自己肯定感の低さから来る曲。感情のままに歌う悲痛な叫びは『毒の手』でその極致に至った。真っ赤に染まる会場は、まさに毒によって傷付けられていくようだった。

続く『車庫の少女』もまた、コンプレックスを歌う曲。再度インスト曲の『another』を挟み、かつてないほど暗い曲調が続くライブ。その終着を告げるのは『いつか、また。』だった。

モチーフとなったキャラ・場面が概ね明確なこの曲は、手を差し伸べられた側の立場が本来であるが、先を見据えたライブ構成を考えると、今回に関しては差し伸べる側の視点もあるんじゃないかと思った。

そうして救い上げられた先にあるのは、まさに今日のような晴れ渡る青空。アイオライト』の晴れ晴れとした曲調が、今までの鬱屈とした空気を吹き飛ばしていく。「色づけ世界」の歌詞と共に、途中枯れてさえいたステージ上の大木は、四季折々の様々な彩りを見せた。

続く『あまい夢』の「目に映るもの全部幻みたいだ」という歌詞は本人にも、観客にも同じような意味として受け取れただろう。コロナ禍ではあるものの、可能な限り客席を埋める観衆。ステージを渡り歩きながら、ライブへ浸らせるべく尽力する上田麗奈の姿。お互いは、お互いを、夢のような景色に見ていたはず。

そして一段と人気の高い『ワタシ*ドリ』。一度の暗黒を経て、再び「ここじゃないどこかへ」と誘いかける歌声は、『車庫の少女』や音源とはまた違ったニュアンスで聴こえたように感じた。

実に15曲を連続で歌い上げるという、一般的なライブから考えれば目を疑うようなことを、彼女は平然とやってのけた。

ここまでの流れを汲んだMCを挟んだ後、終盤へ向かう曲は『マニエールに夢を』と『あなたの好きなメロディ』。それぞれ「RefRain」の始まりと終わりを務める曲だ。果てのない夢から目覚め、地に足を着けて歩み始めると、空から桜の花が舞うことに気付く。

この時自分は『Empathy』のジャケットを思い出していた。小さな桜の木に背中を預ける写真だ。曲と共に舞い散る桜の花びらは、まるで彼女が歩んできたこの5年間を回想し、そして次なる舞台へ向かうことを示唆するようで、そう思うと自然と涙が溢れていた。

そうして夢の時間が終わるように、本は閉じられた。

 

――鳴り止まない拍手は、自然とアンコールを求めるものに変わっていた。発声が禁止される中、観客の心も一つになっていた。

始まったアンコールの一番手は『リテラチュア』。

「好きだから選ぶ、選びながら私になっていく」本来であれば1stLIVEで発表されるはずだったこの曲は、セットリストの組み直しにより新たな意味を持ったように思える。

アンコールという観客から求められて初めて行われる舞台に、肯定をテーマにした楽曲が置かれるのは、とても感慨深い。

続く二番手には『Campanula』。感謝の気持ちが込められたこの楽曲の基となった作品では、「ごめんねではなくありがとう」というフレーズが用いられている。元々、自身の音楽活動に不安を抱いており、今回のライブ開催にあたってもしっかり楽しんでもらえるかどうかを懸念していた彼女。この曲もやはり、アンコールに置かれている意味があるのだと思う。

最後のMCでは、ようやく肩の荷が降りたのか少し慌てる箇所もあったものの、夏に向けてアルバムを制作するとの発表があった。

今までの5年間、そしてこれから先も変わることなく歩み続けることを選択した彼女は、彼女を支える「チーム上田麗奈」に感謝を述べる。その中には、他ならぬファンも含まれているのだと彼女は言う。

ライブの最後を飾る『Walk on your side』では、間奏のクラップを彼女が先導して行った。上田麗奈の歌唱と、観客たちのクラップによって作り上げられる舞台。まさしく、自分も「チーム上田麗奈」の一員なのだという実感が持てた。

「あなたが喜んでいる その瞬間に会いたくて」

「どうしたって過ぎてく毎日を頑張りたい」

彼女はずっとステージの上に居たが、間違いなく、最初から最後までファンに寄り添っていた。そんなライブだった。

 

時おり思うことがある。どうして自分は彼女を好きになったんだろう? きっかけはすぐに思い当たるが、しかし当時を再現するように追いかけてみても、あの頃の感情を呼び戻すことはできない。

それどころか、理解し難いことさえある。良くも悪くも独創性の強い彼女の言動に疑問符が浮かぶことは珍しくないし、反発してしまいたくなるようなことさえある。

でも、それでいいのだと思う。愛憎半ばとまでは行かずとも、理解できる、理解できない、そういった理屈で説明し切れないものが世の中にはいくつもある。

彼女に惹きつけられる「何か」は、彼女を応援する人ならば一度は感じ取ったことがあると思う。その「何か」が何なのかは具体的に分からないが、とにかく、自分が彼女を好きであるという気持ち、今はそれを大事にしたいと思う。

様々な色を感じ取れる、それが感性であり、ほんの少しでも誰かがそれに共感できるのであれば、それはきっと間違いではないのだから。