Saltの思うこと

思ったことを書いていけたらいいなあ

上田麗奈『Nebula』を聴いて一緒に地の底まで堕ちようという記事

8月18日、上田麗奈さん『Nebula』発売おめでとうございます!!

今回は一通り聴いた感想記事になります。1周目は前情報をスパッと断ち切り純粋に曲や歌声を、2周目で歌詞カードやライナーノーツを見ながら解釈していくという聴き方をしてみました。

以下で、1曲ずつ書いていきます。注意事項等は前回の記事と概ね同じです。

Empathyの時の記事↓

うつくしいひと

上田麗奈本人の内面を中心に描いた本アルバム1曲目は「外から見た、ポジティブな上田麗奈」がテーマだそう。厳密には「こうありたい」という本人の願望も混じっていそうだけど。

同じ1曲目としては「アイオライト」より「海の駅」(ライブの1曲目)とか「マニエールに夢を」の方が曲調が近いですね。穏やかな始まりから転落していくというのが大体いつもの構成なので……(?)

白昼夢

一転して重たい伴奏になりますね。しかし歌詞を見てみると明るいというか、メロディに比べて幾分前向きな印象。

元々の発注が「地獄の底からの祈り」というだけあって、どれほど理不尽・不条理を経験しようとも前を向いていたいという強い思いが歌詞に現れています。まぁ、この後ポッキリ折れちゃうんですけど……

Poème en Prose

今回のインスト曲ということで「Falling」「Another」とは近い立ち位置。この曲を聴いた人の大半は「怖い」と思ったのではないでしょうか。夏をテーマにってそういうこと!?と言いたくなるような。

電子音によるノイズがとにかく耳をいじめてきて、思わず目を背けたくなっちゃいますね。でもここが無いと「白昼夢」→「scapesheep」は絶対無理だと思うので、構成って大事だなと思わされます。

自分はここの2曲が一番、外に対して思いを爆発させているシーンなのかなぁと考えてます。そこから先の曲は自己嫌悪に苛まれている気がしますね。

scapesheep

歌声の暗さに対して妙に小気味良いリズムなのが不安定さを感じさせます。歌詞にある「」部分はかなりセリフっぽい歌い方というか、こんな声で歌えるんだ!と初めは思っちゃいました。この低音が好きだって人、他にもいますよね?

さっきも書いたようにこの部分が一番外に対して攻撃的になっていると思うのですが、一方で振り上げた拳をどのように下ろせばいいのかが分からなくなっているような気もします。嫉妬の感情を理解しつつも、嫉妬している自分の愚かさに対しても怒りを向けているような。

アリアドネ

どうも無意識に恒例となっているらしい3拍子の曲。本人曰くサーカスの道化師のような誘いかけだそうですが、自分もそんな印象を抱きました。「scapesheep」で不安定になっている自己に対して、それを俯瞰して見ていたまた別の自分が、嘲笑うために現れたイメージ。

歌詞を見ていると、今にも崩れてしまいそうな"自分"を取り繕うために躍起になっていて、それがなんだか滑稽に見えてくるという、二重か三重ぐらいの視点が必要になるつくりですね。

デスコロール

初見の感想は「どう森の深夜帯BGMにありそう」でした。ただ、『Nebula』自体が夏をテーマにしていることを考えると、たぶんこの曲の時間帯は夏の湿気のある夜だと思うので、もしかしたら間違いではないのかなと自分の中で納得させていたり。

さてさて、構成としてはたぶんここがどん底ですね。情景としては暗闇の中、一人で座り込みながら囁くように歌っているイメージが浮かびました。実はそんな収録もしていたみたいですね。曲の後半では楽器が少しづつ増えていって、もう一度歩き始めたことを思わせます。ただ、道は定まっておらず、目的も無いまま歩いている"だけ"のようですが。

プランクトン

浮遊感というか水中っぽさというか、「揺らぎ」のあるメロディが特徴的ですね。今回唯一の本人作詞ですが、「デスコロール」からそのまま受け継いだようにフラフラと歩いている始まりが印象に残りました。「ここはどこ?私は誰?」という記憶喪失の常套句をこういった形で扱えるセンスがすごい。

構成としては立ち直りのフェーズに差し掛かっていますが、まだどうすればいいのかが分かっていない気がします。それでも、このまま進めば何かが見つかるのではという希望を見出す曲だと思いました。アウトロでどんどん音が抜けていき、やがて1つの音だけになるというのは、進むべき道が見つかったかのよう。

anemone

一番初めに公開された曲で、そういう意味では本アルバム内で特に印象に残っている曲とも言えるのですが……大化けしました。

総括すると良い意味で「諦めがついた」歌詞だと思うのですが、それがこんなに明るく聴こえることにすごく驚きました。「デスコロール」で感じた周りが見えないほどの真っ暗闇に差し込んできた、太陽の光。それがこの曲です。

この曲を好きにさせるために前の7曲があるんじゃないかと思うほど、単発で聴いた時と通しで聴いた時の印象が異なるつくり。物語構成におけるカタルシスの部分とも言えますが、ある種のクライマックスです。

わたしのままで

となると、こっちはエンディングないしエピローグにあたる曲なんじゃないかなぁと。過去肯定というか、自身を赦しているようなイメージがあります。

というか、ハッキリ言って『RefRain』『Empathy』の過去アルバムで出した結論と同じことを歌っているんじゃないでしょうか。「私は私だから、私を受け入れた上で、私の道を私のペースで歩む」っていう決意表明的なものを歌っているのだと過去のアルバムは解釈しているんですが、この曲の場合だともうタイトルからしてモロにそうじゃないですか。ものすごく初歩的な自己肯定の手法ですが、だからこそグッと来るんですよね。そもそもの自己肯定感が低い人なので……

wall

タイトルが公開された時はまだ情報も少なかったので「まさか壁の中に閉じこもってしまうのでは」と思ったのですが、逆に壁を飛び越えていく軽やかな歌でした。

本人曰くカーテンコールのような曲だそうで、言われてみればここまでの9曲からは少し外れたような位置にいる気もします。異物ではないんですけど、物語構成や感情曲線がどこにも属さないというか。歌詞もよく見ると『Nebula』全体の構成を総括しているように思えてきます。

これは完全に幻覚ですしオタクの悪い癖なんですけど、近い時期にリリースされたミリオンライブの『Harmony 4 you』には、過去の自分を励まし、引っ張って連れ出す描写があります。そしてこの歌にも、登場人物が二人いる、そんな気がしました。

全体を通して

前回までと比べてより深淵というか、感情を露わにして歌う場面が多いなぁと思いました。たぶんそれは間違いで、負の要素の方が記憶に残りやすい人間の性質上、怒りや嫉妬が現れた曲のある『Nebula』の方が印象に残っているんだと思いますが。

ところで、このアルバムを聴いた後だと「毒の手」とか「いつか、また。」辺りの過去のネガティブパートの曲も可愛げがあるように見えてきます。なんだかんだ5年ぐらいアーティストやってるんですよねぇ。表に出せるものが増えてきたというか、まだまだ見せられないものが多いというか……。

まとめ

『Nebula』を人にオススメする時に絶対に伝えておきたいのは「一度は通しで聴いてほしい」ことと「歌詞やライナーノーツを見てほしい」ことです。他の人がそうじゃないなんてことは無いですが、並々ならぬ想いを込めて1曲1曲が作られているので、こちらも相応に受け止めてあげたいというのは間違いじゃないと思います。「こちらも抜かねば無作法というもの」ってやつだ。

本人も、感想が返ってきて初めて作品として完成すると常々言っているので、みんなも感想、書こう!あと、送ろう!